屈託のない笑顔とカーリーヘアーがよく似合う。186cm・86kgのサイズも含め、一目でその存在に気が付く。サッカー面でも特徴がはっきりしており、武器は明確だ。バレーボール経験者でアメリカ人の父から譲り受けたパワーと跳躍力は迫力満点で、スピードを生かしたプレーも目を惹く。荒削りだが、そのポテンシャルは計り知れない。
日本から遠く離れた中東の地・カタールで開催された「FIFA U-17ワールドカップ カタール2025」。FC琉球のアカデミー在籍選手として初のメンバー入りを果たした選手がいる。FWマギージェラニー蓮だ。沖縄の米軍基地で暮らし、4歳から6歳まではカリフォルニアで育った過去を持つ。幼少期はバスケットにも興じていたが、小学校3年生の時にFC琉球が主催したサッカー教室をきっかけに本格的にキャリアをスタートさせた。だが、小学校や中学校でトレセンや代表に名を連ねておらず、高校1年生の時点でもU-16沖縄県選抜に選出された経験しかない。実際に今季も怪我を抱え、U-18プリンスリーグ九州2部で2ゴールしか挙げられていなかった。
そんなマギーに転機が訪れる。9月上旬に行なわれたU-17九州トレセンだった。高校1年次の日本クラブユース選手権(U-18)大会九州予選で代表スタッフの目に留まっていた中で、トレーニングマッチで2ゴールを決めてアピールに成功。視察に訪れていたU-17 日本代表の大畑開コーチから高い評価を受け、同月下旬のW杯前最後となる代表候補合宿に参加した。そこでもインパクトを残し、練習試合で1得点をマーク。ストライカーのポジションを指す“9番”を探していた廣山望監督を納得させるパフォーマンスで、本大会行きの切符を手にした。
「びっくりしていた」と本人が振り返ったように、土壇場での代表入りは家族も含めて驚きの出来事。初代表からメンバー発表まで僅か1ヶ月足らずで、ワールドカップの舞台にたどり着いた。海外勢と対戦した経験も中学時代に少しある程度で、ないと言っても過言ではない。10月22日からスタートした国内での最終合宿でもやや緊張した顔付きにも見えたが、意外にも本人は冷静だった。

周りの心配はどこ吹く風で、置かれた環境がガラリと変わってもサッカーを楽しむ姿勢は変わらない。最終調整の地であるUAE出発の前日に行われた流通経済大の練習試合でネットを揺らすなど、手応えと自信を深めて日本を旅立った。
日の丸を背負って異国の地で戦うのは初めて。徐々にプレッシャーを感じるようになると、開幕前最後に非公開で行われたベネズエラ戦は「(ピッチに)入った瞬間、緊張とかもあって怖かった」と振り返った。しかし、時は待ってくれない。30日にはドーハへ移動し、3日のモロッコ戦に向けて調整を進めていった。

迎えた開幕戦。ベンチから戦況を見守り、出番を待った。そして、68分に声がかかる。試合前から顔が強張り、今までにない重圧と闘いながらピッチに入ると、「最初のプレーでボールに触れたので、ちょっと緊張感がなくなった」(マギー)。
ファーストタッチで落ち着きを取り戻すと、3−4−2−1の最前線で役割を全う。フィジカルの強さを生かしたプレーで時間を作り、守備では献身的なプレスで味方を助けた。そして、1−0で迎えた後半45+8分。右サイドにボールが出ると、全速力でボールを追いかける。時間を使う選択肢もあったが、マギーは仕掛けることを決断。「ゴール前に持って行きたい」。相手の素早い寄せにも負けず、CKフラッグ付近からゴール前に進入。最後は相手DFが触る形でMF平島大悟(鹿島ユース)につなげ、試合を決める2点目を演出した。
「身体とスピードでは絶対勝てる気がした。この基準で絶対にいけるなと」

日の丸を背負って初めて挑む公式戦。世界で戦うための基準を知り、手応えをつかんだ。真剣勝負の場でアフリカ王者と対峙できた経験はポジティブな材料。しかし、次戦は世界で戦う厳しさや難しさを痛感させられる。
中2日で臨んだニューカレドニアとの第2戦。初先発を飾ったマギーは序盤からギアを上げ、積極的なプレーで得点を狙った。しかし、5−4−1で守備ブロックを形成し、ゴール前を固めてきた相手を崩せない。88分に交代するまで何度も迫ったが、最後までネットは揺らせず、チームもスコアレスドローでゲームを終えた。
試合後、マギーは悔しさを滲ませた。何を聞いても出てくる言葉は「悔しい」の一言。チームが苦しい時に救える存在でありたいと想うが故に、今までに味わったことがないような心境だった。

再び中2日で迎えた欧州王者のポルトガル戦。各組上位2位と各組3位の上位8チームに与えられるノックアウトステージ進出の権利をほぼ手中に収めていたなかで、ベンチから戦況を見守ったマギーは2−0で迎えた57分から試合に出場する。だが、71分にMF長南開史(柏)が退場となり、相手に押し込まれる時間が長くなった。そうした難しさもあり、この日も不発。悔しさはさらに高まった。
さらに追い打ちをかけるように、マギーはポルトガル戦の試合中に右のふくらはぎを負傷。ポルトガル戦の翌日がオフとなったなかで、11日の練習に姿を見せず、12日も別メニューでの調整となった。幸いにも大事に至らなかったが、「早くボールを蹴りたい」とトレーナーに何度も言う姿からはモチベーションの高さが見て取れる。一方で焦りもあり、結果が出せていない現実とコンディション不良に複雑な心境も抱えていた。
ラウンド32の南アフリカ戦は試合に出られる状況であったが、3−0で勝ち切った試合展開もあって今大会初めて出場機会はなし。さらにFW吉田湊海(鹿島ユース)やFW浅田大翔(横浜)が初得点をマークしたことで、悔しさは何倍にも膨れ上がった。
「負けたら帰らないといけない。そうなりたくないので、練習からしっかり頑張るしかない」。南アフリカ戦の翌日、マギーはラウンド16の北朝鮮戦に向けて再スタートを切った。足にはまだテーピングが施されているが、コンディションは悪くない。状態の良さを踏まえ、廣山監督は北朝鮮戦のスターターにマギーを抜擢した。

今大会2度目のスタメン。試合前から相手は日本に対して敵意を剥き出しにし、ロッカーアウトの前や整列後の挨拶で過剰に煽ってくる姿があった。そうした異様な雰囲気にも動じず、冷静に対応。コイントスの際には主審と英語で会話するなど、状況に応じた振る舞いでゲームに集中する環境を作り出そうとした。
そうした心の余裕がプレーにも現れ、開始4分にいきなり魅せる。左サイドからMF瀬口大翔(神戸U-18)がファーサイドにクロスを供給。相手のマークをうまく外したマギーはフリーになると、前に出てきた相手GKの裏をかく鮮やかなヘディングシュートを放つ。頭上を超えたボールが見事に吸い込まれ、チームに先制点をもたらすだけではなく、待ちに待ったワールドカップ初ゴール。「日本のために」、「沖縄のために」と常日頃から口にしていた男が有言実行の一撃を決めた。最終的に追い付かれ、PK戦で勝利を挙げる激闘となったが、マギーがもたらした得点の価値は大きい。「怪我してもいいから、絶対にチームを勝たせたい」という覚悟が実り、世界で戦うための自信を手に入れた。

11年大会以来となるベスト8に勝ち進んだ日本の次なる相手はオーストリア。180cm以上の選手がずらりと並び、最終ラインには198cmのCBもいる。高さがあるだけではなく、スピードもあり、一筋縄ではいかない。今までの相手とは一味違う。初の4強入りを懸けた大一番はサブに回ったが、ベンチから出番をうかがった。
前半はスコアレス。互いに決定機を作る中で、後半開始早々の49分に一緒の隙をつかれてショートCKから失点した。攻めに出るしかなくなると、61分にマギーがピッチに入る。前線で起点を作るべく奔走するが、相手の牙城を崩せない。今までであれば競り勝っていたボールも弾き返され、持ち味を発揮できずに時間だけが経過。そして、試合終了のホイッスルが鳴ると、マギーはグラウンドに崩れ落ちた。

僅か1ヶ月でたどり着いたワールドカップの舞台。初めて味わう不安やプレッシャーはもちろん、日の丸を背負う重圧とも戦いながら全力で駆け抜けた。
「質とか技術とかそういうのが足りていなかった」。オーストリア戦の悔しさを噛み締めたが、自分の現在地を知れたのは財産だ。もっと言えば、今まで知らなかった世界で戦う基準を知れたのもプラスで、さらに上を目指したいという欲が出てきたことも今大会に参加したからこそだろう。
「今大会のメンバーと同じくらいのレベルまで成長して、もう1度みんなとサッカーができるようにしっかり頑張りたい」
体力面や守備における戦術理解度など、課題はまだまだある。だが、目指すべき頂は見えた。世界を知った以上はもっと上を目指したくなるのは自然の流れ。そこに辿り着くためにも、やるべきことはたくさんある。U-18チームをプリンスリーグ九州1部昇格に導き、来季はトップチームでのプレーも目指さなければならない。一歩ずつ階段を登っていけば、次のステージが見えてくる。沖縄から世界へ。仲間との再会を心待ちにするマギーの物語はまだ始まったばかりだ。
【文・松尾祐希】
vol.1 :モロッコ戦編
vol.2:ニューカレドニア戦編
vol.3:ポルトガル戦編
vol.4:南アフリカ戦編
vol.5:朝鮮民主主義人民共和国戦編
vol.6:オーストリア戦編